0288_インド系社員との仕事②
一緒に働いているインド系社員との思い出。
D君の工場でのものづくりの際の行動録。
片付けをやらない、片付けも仕事の指示と同様に
この作業を頼むと伝え、終わったか?と確認し
なんだかんだ言っているので仕事(物)を確認し
できていないところ(指示が完璧でなかった)
を修正する方法を伝え、修正を指示し、最後に
これでできたから、と伝える。
一つの仕事が完了したら、日本の後輩だと自然に
次は何をするべきか考え、不明なら聞いてくれる。
ところが彼の口から出る一言目は
「日本はいま冬なのか?」というような
時空を超えたような質問だったりする。
D君そのものの感受性も大いにあるだろうが
ムスリムや中華系と仕事をしていて、少なからず
私は日本人で、技術指導をしにきていて、
私個人的にも厳し目の観点を持っている
ということは一年同じ工場にいれば分かるし
早い人なら「仕事に関係ないことを嫌う」
という私の行動指針は10分かそれくらいあれば
入社したばかりでも読み取ることができるはずだ。
片付けをして、と頼んでも片付けは甘く、
何せ日本人から見ると雑である。みんなで共有
して使っている道具の大半は、彼のようは
ケアレスな人間がダメにするケースが多い。
私も自分を十二分にケアレスな人種と自覚して
いるが、先輩に片付けろと言われる前に片付けを
したいし、先輩がミスを指摘してくれている
時に着信があっても携帯をポケットから取り出す
ようなことはしない。とまぁそんなことだ。
この種の人間を正そうとか育てようとか
熱を持っても、短期的にはかわらない。
私は怠惰な彼の行動に、Change your mind set
と言って、精度の捉え方や仕事の順序、
時間を大事にする気持ちなどを説いている。
が同時に、期待はしないことと決めている。
さて、そんな彼だが、一つだけ驚き見直した
ことがあった。それは出張時、とんでもない
ミスをしでかした上にやり直しでさらに
重大なミスをし、誰からも怒られず、影で
「あいつは何をしにタイに来たのか?」と
言われていたそんな仕事終わりの会食の時だった。
おそらく仕事を辞めたいか、死にたいか
自分ならどっちかの気持ちにしかならないだろう
と心配しつつもいつも通り明るく接していたが
食事の途中から、私を含む3人の先輩の前で
30分ほど、スマホで通話をしていたのだ。
若く、軽率で、重大なミスをした彼でも
目の前で通話をされると会話を控えるのが
私含む3人の律儀な行動だった。一行に終わらない。
何ならタミル(インド系の言語)なので
何の議題かすら全くわからない。
彼は幼少期家で何を学んだ人間なのだろうと、
もはや呆れることも忘れる様子だったが、
驚いたことに父親と電話をしていたようだ。
どんな父親なのか尋ねてみたところ
D君は「厳格だが、世界一の父親だ」と
臆することもなく言ったのだった。
彼はもはや私と同じ次元にいない。
彼は路上で暮らしたのではないかと心配したが
父も母も勤勉に働いているらしく大学も出させて
くれた、とD君は誇らしげに言った。
それでも彼との仕事は続いていった。
家族を大切にすることや、周りを気にする
という基本的な姿勢を持たずに大人になった点
私とは異なるが彼が仕事のミスや失恋で
少なくとも自分を責めて苦しむ日はこないだろう。
何かうまい具合にショックリレーのような
装置が内蔵されていて、他にぶつかりながらも
前に進めるように設計された思考を持っている。
自分と似たようで、自分は全く弱いと感じた。
しかし、多様な人種から、ただ自分を省みた
という点でこの機会も美しく有難いものだ。
日本はいま冬なのかという言葉、
父親は世界一だという自負、他にも枚挙に
いとまがないほど驚かされることが起きる。
他人の一挙一動が、まるで喉の奥の魚の小骨の
ようにひっかかり居心地が悪くなるたちの私にとって
今は自分が寛大になるための温室だと捉えたい。