0168_海の上の男たち
先輩と一泊二日で釣り旅行に行った話。
クアラルンプールから車で3時間ほどの
Lumutという街へ金曜の夜中から移動し、
車で30分くらい寝た後に港から出航。
7人乗りの船、(HONDAの150馬力エンジン
2機搭載とGARMINの魚群探知機搭載した船)
で約1時間沖へ沖へと進みPulau Jarak(ジャラ島)へ。
行くまでに海の上で雷雨に遭遇してしまい
久々に身の危険を感じながらも、自然を好む
私と先輩は、雨粒にうたれ雲海のようになった
白やいで荒れた海面を見て、ずぶ濡れの体に
凍えながらも、雨音に負けないような声で
ここは空の上か、あの世みたいですねと笑った。
嵐を抜けると穏やかな曇り空に戻った。
大雨で一寸先が見えないような数十分を
抜けると島が見えた。海賊漫画のようだった。
Jarak島へは上陸せず、島の周りの魚群を求め
船を何度も移動させ、止まっては釣り。
今回は先輩が帰任される前にどうしても
10kg級のGTと戦いたいとの要望があり、
GTフィッシングを旅の目的に据えていた。
慣れた手つきで船を動かし、魚群探知機が
ピピピという合図を出すエリアへ次から次へと
案内して下さる船長。
釣れる魚や水深のどの辺りに魚群が来るか
教えてくださるのだ。最初は探知機を見て
現状を伝えてくれているのかと思っていたが
船長が言った通りに後からレーダーが
反応することもあり、完全に潮と魚群の流れを
先読みしての示唆だった。驚くべき能力。
何度も何度も同じ場所で釣りをした達観だろう。
釣りだけではなく、飲み物を飲むようにとか
魚がいないから今は休憩だ、などと、かなりの
マネジメント能力の高い方であった。
私が釣りをあまりしない人間だと気づき、
釣りを開始した直後彼の最初のヒットを
さぁ、君が釣り上げるんだ!と竿を渡して下さり
一緒に釣り上げ写真も撮ってくださった。
(後から見ると加工して渡してくれていた)
その船長のことで更に驚いたのは、
断食中なので釣りをした(海の上にいた)約10時間は飲まず食わずだったという事実だ。
私はのんきにスナックを食べたり水をのんだり
あげく休憩だと知った時に船の上で昼寝した。
先輩から聞いた話では、その時はお祈りをしていた
らしいのだ。
ラマダンが明けた19:30ごろ、落ち着いた様子で
ペットボトルの水を50mlほど飲み
表情一つ変えずにいた彼は神のように見えた。
釣りは奥が深いが、釣りを好んでやる
男たちの男らしさは相変わらず万国共通だ。
川釣りや釣り堀など含めると様々な種類の
釣りの楽しみ方があるが、釣りを楽しむ男たち
がこの世で最も男の中の男だと信じている。
暇つぶしに近所に安物の竿を一本持って
行くのよりは、大物を狙って準備をして
釣れなくても楽しかったと言える男たちが
海にはたくさんいる。本業は皆様々だ。
二日目のスンビラン島という9つの島を
周遊しながら釣りをした時も同様に、
初対面のスリランカ人(スヌープドッグに
そっくりでカッコいい方だった)も
もう来週にでも3人目の子どもが生まれるよ
と他人事のようにあっさり子孫繁栄を
言ってのけると、その奥にいたもう1人は
3人の妻がいる。妻はどこにでもいるんだよ
海にはいないけど。とユーモアたっぷりだ。
皆、ほとんど会話をしないが、
お互いの釣った魚の情報や使っている道具の
情報交換には余念がない。無駄話や悩みを削いで
大物を釣る目的に完全に集中したメンバーだった。
私は道具もなしに先輩について行って教わって
そこそこ釣って楽しい思い出だけ残したが、
彼ら釣り人という人種に今後は尊敬と親しみを
持って接することができるようになる。
何事も、挑戦しないと分からない世界がある。
私は釣りには全く関心がなかったが、
縁あってかなり楽しませてもらうことができ
また魚種や世界の海についても見識が広まり
行ってみたい地域も増えた。本当に感謝。
さぁ、先輩が帰任するといよいよ自分が
リーダーシップをとってマレーシア工場での
製造現場をきりもりしていくことになる。
目標への気合いを入れて、適度にゆるく。
海の上にいる時のように柔軟に、今日も頑張ろう。