0233_こんなこともあろうかと
"こんなこともあろうかと思って事前に"。
これは私の脳内で頻繁に見受けられる着想だ。
それらのほとんどは仕事中に自然発生する。
私の仕事は工場での産業機械作りだ。
部品点数10000点以上、全長10m以上、
販売価格は数千万円、出荷、搬出に
10トン車を数台必要とするような
目に見えて大きな機械を作っている。
仕事の大きさを強調するのは、やはり
大きな仕事でも板金の小傷は許されないし、
ネジ一本緩めば大問題になってしまう。
卓上で組立てできて卓上で使えて、
生産ラインがあって量産されているような
イメージしやすい工場勤務とは違い
単調な作業が続くことがないのだ。
作業にせよ、検査にせよ、
細部まで目を光らせ気を利かせて準備し
工夫して丁寧に早く仕事を進めることが重要だ。
こんなこともあろうかと。
という着想が身につき習慣化したことは
自分のキャリアの中でもかなり優位性があると
思い、苦労した甲斐は習慣で回収できた。
と今なら言ってもいいと思っている。
さて、こんなこともあろうか、という
着想や行動を実際のものづくりや生活の中で
どうやって具体的動作に落とし込んでいるか
枚挙にいとまがないが一つだけ紹介したい。
それは、海外出張と電池交換だ。
こんなこともあろうかと電池の代えを
正しく用意しておくこと。とくに私が働く
東南アジアでこれはとても有効な手立てだ。
リモコンくらいなら電池が切れても
本体側で操作できるかもしれないが、
電池が切れたら使えなくなるものも多い。
・長期出張前にマウスの電池を新品に交換して
動作確認し、元あった電池も持っていく。
・持込機材に何の種類の電池が何個使われて
いるのか把握し予備を数個購入してから
荷造りする。予備電池は常に携える。
・電池の規格は日本と異なることが多い。
訪問国の単三、単四にあたる電池の
規格名を出発前にメモしておく。
具体動作としてはそんなところである。
そう、細かい些末なことだ。しなくても良い。
しなくても良いという言葉がもつ本質は、
しなくてもうまくいくということであって
したくないことであってはならない。
私は仕事の都合上、コンビニはおろか
電波も水道もなく照明がないため夕暮れ
以降は仕事ができない、人もいない。
しかし仕事はかなり物量があり期日を
自己都合でずらせないというプロジェクトが
非常に頻繁にあり、そうなると日本で働くより
便利さに依存する気持ちは薄らいでいく。
不便で不便で不便で、さらに不便が続く。
という状況でも嘆かずに成果を出したいのだ。
一流になりたいと言っておいて、
出張先の東南アジアの森の中で、
「PC操作をするマウスの電池が切れ、
図面確認動作が難しく時間を要した」
などという情けない業務報告はしたくない。
ましてや「ホームセンターがなかったので
資材や道具が見つからなかった」などと
日本に当たり前にあるものに依存して海外で
不便さを嘆いても、誰も慰めてはくれない。
森の中で誰も助けてくれないことを想定できるか
一流エンジニアになれるかどうかの指標には
そんなことは内包されていないのは承知している。
しかし、私が目指す一流エンジニア像は
どこで誰と何をやっても抜かりなく成果を
出せる男なのだ。そしてそれは、行ってから
何とでもできる男というよりは、行く前に
周到な準備と綿密なシャドーファイトを経て、
戦って実力を試したいと渇望する男だ。
準備は周到に。電池一個身近にいつでも
手に入る環境にあることに感謝して。
便利なものは不意になくなることを
頭の片隅に置いて生活と仕事に勤しみたい。